「百歩ゆずって…呪いが本当だとして、じゃあ僕は一生女の子に縁がないと?」


そんなの、酷すぎる!


「馬鹿か。私がいるだろう、私も女の子だ。」


違う。お前は違う。


「僕は、何て言うか、お前にはときめかないんだよ…!」


「ときめきって何?おいしいの?」


だから、ですね。
そう言うことを普通の女の子は言わないの!


「目が合うとドキドキするとかさ。」


「病院にいけ。不整脈だ。」


「僕、もうお前と喋りたくない…。どんどん、嫌いになりそうだ。」


多分。
朱羅は恋愛とか経験ないんだろうな。


単純に、僕と結婚することを刷り込まれ、それが正しい事だと信じてるんだろ?


「朱羅、虚しくないか?お前、一応女の子だろ。恋愛とか興味ないの?」


「藍と夫婦になるのが私の宿命だから。」


何を言っても無駄か。


今日、美貴さんを見て、僕は緊張してドキドキした。


朱羅を見ても、そんな気持ちにはならない。


こっくりさんも呪いをかけるなら、僕が朱羅を好きになる呪いをかければ良かったのに。


僕の周りから朱羅以外の女の子を排除したって、意味がないと思うけど。


むしろ、僕は結婚しない選択をする。


好きでもない奴と、なんて絶対に嫌だから。



突然。
沈黙を切り裂くように、ベートーベンの「運命」が部屋に鳴り響いた。


「うわっ!何だよ!?」


「…私のケータイの着信音だ。藍のママからだぞ。」

紛らわしいな。
しかも、どんなセンスだよ。


「…もしもし?水樹おば様。…はい、私は構いませんが、御子息は嫌がると思います。」


何だよ…今度は一体、何を言う気だよ!?


「辛子明太子と、カステラですか…究極の選択ですね…。」


しかも無関係な話をしてんじゃねー。


「じゃあ、間をとって、フグ刺しで。」


「おい。悠々と長電話してんじゃねーよ。用件は何だよ?」


僕はケータイを奪い取ると、母さんに向かって叫んだ。


「…ま。藍君、性格変わってない?…実はね、朱羅ちゃんの事なんだけど。…彼女、北海道から出てきて、住むところがないのよ。うちに客間あるでしょ?夏休みの間だけでいいから、面倒見てやってくれない?」


「え?何で僕が?」


どこの世界に、自分の息子と見知らぬ女の子を1つ屋根の下に置こうとする親がいるんだよ!!


「どうせ結婚するんだし、いいじゃん。予行演習だと思いなさい。」


一瞬。
僕は母さんと親子の縁を切ろうかと、本気で考えてしまった。


「僕は、絶対に嫌だから!!」