「…あ、戻ってきた。美貴、大丈夫?」


「うん。…でも、こっちはダメみたいだ。」


美貴さんは、握っていた掌を開いた。


綺麗な天然石のネックレス。その石が、見事に割れていた。


「これ、魔除けの御守りなんだけど。…私の身代わりに壊れてしまったらしい。」


僕は、その話を聞いてゾッとした。


多分、浩紀や春人は信じてはいないだろうが、僕は、昨日うちにやってきた変な女の話を思い出していた。


こっくりさんの呪いの話。


もちろん、本気にはしていないが、何だか気持ちが悪い。


「美貴のうちは神社だからね。彼女は霊感が強いの。」


麻季さんが説明してくれた。


「この部屋、何かいるみたいだ。…こんな強い妖気は初めて。」


美貴さんは、そう言って震えている。


「それって…この部屋で誰かが死んだとか?」


浩紀は悪のりする。


「だとしたら、怖いな。」


「やだあ、部屋を変えてもらおうよ!なんか気持ち悪い!」


麻季さんはそう言ったが、夏休みで混み合っているカラオケ屋には空室がなかった。


結局、僕たちはカラオケを諦め、調子の悪い美貴さんは帰ってしまうし、僕一人、皆の邪魔者になるのも嫌だったので、家に帰ることにした。



途中、コンビニに寄り、昼飯を買った。


そして家に辿り着くと、玄関が開いている事に気がついた。


出るときに鍵を閉めたはず…もしかして!



僕の勘は当たっていて、昨日の変な奴が居間のソファーで堂々と居眠りしていたのだった。


「起きろ!不法侵入だぞ!」


「むにゃむにゃ…藍か。待ちくたびれたぞ。どこに行ってたんだ?」


僕はお前と約束した覚えなどない。


「腹が減ったな。…パスタか。まあ、いいや。」


あろうことか、奴は勝手にコンビニの袋を開けて、僕の昼飯を食べはじめていた。


「図々しい奴だな。…おい、ひとつお前に聞きたい事がある。」


「お前じゃなくて、私の名前は朱羅だ。」


「朱羅、こっくりさんの呪いって、今でもあるのか?」


朱羅の動きが止まる。


「藍、私以外の女と一緒だったの?」


うう…何で分かるんだ?

「その女は、無事だったか?」


朱羅の顔つきが、怖い。

まるで、すべてを見透かしているような、目。



「頭痛がするって、帰ったよ。魔除けの御守りが壊れたって。」


「そうか。その程度で済んで良かったな。」


何だよ、どういう意味だよ!


「藍、今まで女の子に避けられていると感じたことはないか?」


「まあ…そう言われれば…そうだけど。」


なんで、その事をこいつが知っている?


「それが呪いだよ。藍は、私以外の女とは付き合ったり、結婚したり、出来ないことになっている。」


「信じられないね。」


と、言ったものの。
確かに今日の美貴さんは、変だった。


信じたくはないが、その呪いが本当に存在するなら、すべて辻褄が合う。