「おー、いたいた!おーい、麻季!」
浩紀が腕を大きく振る。
「麻季は、幼馴染みなんだ。だから、俺は他の子狙いな。」
そっと、耳打ちする。
浩紀の幼馴染みの、麻季って子は、ショートヘアで気が強そうな美人だ。
他の二人の子も、なかなか可愛い。
「レベル高いな、あっち。」
春人が、怯み始めた。
「大丈夫だよ。春人は上級生にモテんじゃん。自信持てよ。」
浩紀は爽やかな体育会系だし、春人はマスコット的な存在である。可愛い系っていうのかな。
一番平凡なの、僕だよな。…何か、凹む。
まあ、今日彼女が出来なくても、別に楽しければいいさ!
「早く、もう予約入れてるんだから、さっさと来なさいよ!」
麻季さんに急かされる。
「あいつ、学級委員とかやってて、仕切りたがりだからな。あの性格も相変わらずだな。」
浩紀は肩をすくめた。
「こんにちはー。」
「初めまして。」
麻季さん以外の女の子は、大人しそうな感じだ。
「由紀と美貴だよ。由紀は手芸部で、美貴は剣道部。」
麻季さんが簡単に説明する。
由紀さんは、ほんわかしてて、常ににこにこしている。
美貴さんは、真面目そうな感じ。剣道部ってのが、ちょっと怖いかな。
室内に入ると、浩紀は由紀さんの隣に座った。…分かりやすいな。
「由紀、浩紀は手が早いから気をつけて。」
麻季さんが笑いながら言った。
春人は麻季さんにつかまったので、僕は自然、美貴さんの隣の席になった。
近くで見ると、美人だな。…何か、話題を…って、何を喋ればいいんだ!?
急に不安な気分に陥った。僕はこれまで、まともに女子と話をしたことがない。
女の子って、どういう話題が好きなんだろう?
やっぱりテレビとか、音楽の話かな?
でも美貴さんは、真面目そうだし、そういうの興味あるのかな?
僕の不安が通じたのか、彼女の方から声をかけてくれた。
「藍君って、変わった名前ですよね。…どなたが名付け親です?」
「え…多分、じいさんかな。うちは皆、名前に色がつくから。」
「面白いですね。」
「そ、そうかな。」
話が、途切れてしまった。…僕のせいだな。
「美貴さんは、剣道部ですよね。段もちですか?」
「まあ、そうです。」
この話題は、あまり良くなかったようだ。
ヤバい…緊張で、掌が汗だくだ。
ふと見ると、美貴さんの顔色があまり優れないようだ。
やっぱり僕はつまらない男なのだろうか?
「申し訳ない。何だか、頭痛がする。…席を外します。」
ふらふらになりながら、美貴さんは、立ち上がった。…気分が悪いのか?
「美貴、大丈夫〜?」
由紀さんが後から付いて行った。
残された僕たちは、顔を見合わせる。
「彼女、どうしたんだ?」
浩紀が麻季さんに尋ねる。
「さっきまで、元気だったのに。夏風邪かな。」
「頭痛がするって、言ってた。」
僕は何となく気まずくなり、美貴さんが座っていた席を見つめた。
「本当に大丈夫かな…。」
「藍君のせいじゃないわ。気にしちゃダメよ。」
麻季さんはそう言ってくれたが。