俺の名前は谷口麻斗(たにぐちあさと)。
つい3日前までは地元の東京に住んでいた男子高校生だ。
容姿は平凡、といえるだろう。
若干タレ目の童顔で、元気に跳ねる髪の毛を茶色く染めている。
あまり容姿は語れるものがないのが最近少し気になりだしたお年頃だ。
近々ピアスでも開けようかなとひそかに検討中である。
そんな俺の転校先の高校への初登校日と、両親の海外への出発日は同じだった。
転校先の学校があるのは、以前の地元より若干田舎であった。
風は澄んでいて、綺麗な空気が自分を包んでくれて。
マイナスイオンが肺を洗浄してくれているのがよく分かった。
そしてあたりを見渡せば地元とは違って、人工的ではない天然の木々が生い茂っていた。
それに恐ろしく静かであった。
新しい新居は小さなアパートで、壁も薄く隣の生活音が丸聞こえではあったものの地元であった車の行き交う音やら。
遅い時間にも関わらず練り歩く若者や酔っぱらいのサラリーマンの声すら無かった。
今も馴れない通学路を進んでいるが、車の横切る音は少なく。
通学途中であろう同い年くらいの学生もなんだか落ち着いて見えた。
髪はほとんど染めてもなくて、制服の着崩しも少なくて控えめな気がする。
地元には金髪頭のチャラ男が至る所に居た気がする。
…治安が悪かったのかな?
なんてどうでもいいことをぼんやりと考えていたら、ひとりきりになっていたことに気付く。
思わず驚いて立ち尽くして、後ろも確認するが人っ子ひとり見当たらない。
迷ったのかとも思ったが、そんなはずはない。
昨日も当日に迷わないようにと、下見を兼ねて道を確認しておいたのだ。
道は…間違ってない。
え、なんで。何処から居なくなったの。
別に誰かと一緒に行く約束なんてしてなかったし、さっきまで近くにぽつぽつと居た同い年の学生たちは制服が違っていたから高校も違うのは分かっていた。
分かっていたけど、いきなりまだ右も左も分からない田舎の道でぼっちというのはあまりにも心細い。
しかし行かなくては間に合わなくなってしまう。
転校初日に遅刻するなんて、良くない。
俺は足早にひとり、道を進むのだった。