「…美琴?なんで…」
その容姿には
覚えがあった。
黒の長いストレートヘアに
少しつりあがった大きな瞳。
間違いない、美琴だ。
「零ちゃん久しぶり!もうっ元カノの顔も忘れたっていうの?」
クスクスと笑っていた。
そう、葉山 美琴(ハヤマ ミコト)は
俺の元カノだ。
「零太くん、その子は?」
心配そうな顔した恵恋と
凪が俺たちの所へ来た。
「わりぃ…今日は先に帰っててくれ」
それだけしか言えなかった。
「え、でも…」
「いいから。早く帰れ」
少し乱暴に言い放った。
とりあえずこの場に
いてほしくなかった。
「恵恋、行こ」
凪に連れられ
恵恋は俺の横を通り過ぎたのだった。
「零ちゃん、今のって彼女?」
「…美琴には関係ないだろ」
「うわっ冷たっ!昔はもう少し優しかったのに」
なんでこいつ
このタイミングで現れるんだよ。
ありえねー…
「とりあえず、ここ目立つから場所変えて話そう」
そう言って俺と美琴は
喫茶店に入った。
「で、俺に何の用だ?」
「べつに~零ちゃんに会いに来ただけ」
嘘つけ。
そんなにヘラヘラ笑いやがって。
美琴は俺の中学生のころの彼女だ。
昔から何を考えてるか
分かんねー奴だった。
今も何を企んでるんだか。
「本当のこと言えよ」
「だから会いに来ただけだって!」
「…帰る」
話にならん。
どんだけ経ってもこいつは
俺に本心を見せない。
昔っからそうだ。
「待って!零ちゃん!」
帰ろうとした俺を
少し焦った様子で止めた。
「零ちゃんに会いに来たっていうのは本当。零ちゃんのこと思い出してたらいてもたってもいられなくなって…」
なんだよそれ。
はぁ~と大きくため息をつくと
もう一度椅子に座り直した。
「最初っからそう言えよ」
そう言って俺は
美琴の頭を撫でた。
あっやべ。
昔の癖でつい…
「零ちゃん…私ね…」
「やっぱ零ちゃんのことが好きなの!」
はっ?!
突然の告白に目を丸くした。
「なんだよそれ…」
だが俺は昔のことを思い出して
美琴から視線を外した。
俺を振ったのは
美琴じゃねーか。
なのに、なんで今さら…
「私、零ちゃんと付き合ってて本当に楽しかった。それに振ったあとすごく後悔したよ」
何言ってんだよ。
俺と別れたすぐに
他の男とデキてたくせに。
信じらんねー。
俺があの時どんなに辛かったのか
美琴には分かんねーだろうな。
「だからもう一度やり直したい」
「………ごめん」
今更付き合うなど
そんなことは出来ない。
「そうだよね」
美琴は泣くのを
グッと堪えていた。
「美琴…」
美琴が泣きそうになるのを見ると
つい手を伸ばしてしまっていた。
「ダメだよ零ちゃん」
美琴はその手を止めさせた。
「そんなことされたら私期待しちゃうよ?」
美琴…
俺はそのまま手を戻した。
美琴の気持ちには
応えられない。
「でもっ気持ち伝えれてよかった」
美琴はスッキリしたように
笑っていた。
「ごめんね、また私なんかを思い出させちゃって」
「別に、そんなことないよ」
確かに美琴を恨んだ時もあったが
付き合ってるときは
本当に好きだったし楽しかったから。
「そういえば、さっき校門のところにいた女の子って彼女?」
「いや…………ああ、俺の彼女」
「あははっ零ちゃん相当惚れてるんだね」
え?惚れてる?
そんな風に見えてたのか。
「だって零ちゃん、自分じゃ気付いてないかもしれないけど、彼女のこと思い出してるときすっごく嬉しそうにしてたよ?」
「なっ」
自分の心を見透かされたようで
急に恥ずかしくなってきた。
「……大事にしてあげなよ」
「ああ」
「ところでさ!最後に1つだけお願いがあるんだけどいい?!」
お願い?
まあ、最後っていうんだから
別に聞いてやってもいいか。
「お願いって?」
「それはね……」
-恵恋 side-
「…恵恋、大丈夫?」
さっきの女の子誰なんだろう…
それに零太くんちょっと怖かった。
「ったく、恵恋がいるっていうのに他に女作りやがってさ」
「しょうがないよ、だって私は本当の彼女じゃないし」
「……え?」
あっやばい。
気づいた時には遅かった。
つい本当のことを話してしまっていた。
「恵恋、それどういうこと?」
「え、えっとその…」
ど、どどうしよう…!
凪くん真っ直ぐな目で見てくるし
これ以上嘘はつけないよ~!
私は観念して本当のことを話した。
別に零太くんの友達なら
話しちゃっても大丈夫だよね?