ねえ好きって言って 【完】

「恵恋すっげー可愛いし、小さいし見てて守りたくなるっていうか、それに優しくって…恵恋の笑った顔がすっげー好きなんだ」




「…………って俺、何彼氏の前で言っちゃってんだよ!」




凪は顔を赤くさせていた。




俺は凪の話を
黙って聞いた。




「なあ零太、本当に恵恋と付き合ってるんだよな?」




凪は真剣な目で俺を見た。




あ、言わないと。
本当は付き合ってないって…




「俺たち、本当は…………」




その言葉の続きが出てこなかった。
くそ、なんでだよ…!




"付き合ってない"




たったこの言葉だけが
声に出せなかった。




今俺が本当のことを言えば
凪はきっと恵恋を奪う。




……そんなのは、嫌だ。




恵恋を誰にも奪われたくない。




もう訳分かんねー。
なんでだよ。
恵恋のことなんて好きじゃ…




「零太?」




「凪…」




「あぁ、本当に付き合ってるよ」
恵恋を取られたくない思いから
俺はそんな嘘をついてしまっていた。




「そっか」

わりぃな、凪。
恵恋は誰にも渡したくないんだ。




「でも、俺は恵恋が好きだから例え零太が彼氏でも手加減はしないからっ♪」




ニコッとVサインをしてきた。




「あぁ」




凪が諦めないことくらい
分かりきっていた。

…ぜってー負けねえ。




「それと、人の彼女の名前呼び捨てにすんな」




こいつが、恵恋って呼ぶ度に
なんかイラッとするんだよな。
理由は分かんねーけど。




「ふんっ恵恋と俺は友だちだからいいもんね」

「凪っ…」






「零太、これだけは言っておく。恵恋を悲しませるようなことしたら絶対許さないから」

「そんなこと分かってるってーの」




当たり前だ。
恵恋は俺が守るって決めたんだから。





-恵恋 side-




ピピピピッ――




よし、今日はもう熱はないね!




零太くんに送ってもらった日から
結局また熱が上がってしまい、
2日間ほど学校を休んでいた。




今日からやっと学校行けるっ




「いってきまーす!」




玄関を出ると私は
驚いて目をパチクリさせた。




「零太くん?!」

な、なんで零太くんがうちに…




「別に、気まぐれだから」

「言ってくれればもっと早くに出たのに!」




2日間ぶりだから
なんか緊張しちゃう…




「行くぞ」

「えっ、あ…うん!」

なんか家から学校に一緒に
登校ってなんか変な感じ。


でも迎えにきてくれて
すっごく嬉しかった。




「あのさ、なんで前凪に自分から彼女って言ったの?」

えっ!言っちゃダメだったかな?
知らない内に勝手に口が
動いちゃったんだけど…




「う~ん、なんでだろ…」

「そうか。あと、凪に彼女のフリしてるってことは言わなくていいから」

「えっ?なんで?」




てっきり零太くんがもう
本当のこと言ってるのかと思ってた。
「なんでも」



いたっ

そう言ってデコピンをされた。




そういえばなんで今日
迎えに来てくれたんだろう。




別に付き合ってる訳じゃないし…

ん~なんでだろ。




零太くんに聞こうかと思ったけど
なんだか聞かない方がいい気がして
心の中にそっと止めておいた。




学校に着くと相変わらず
みんなの視線が痛かった。




「朝から一緒に登校って…」

「いいなぁ~」




妬みや恨みの声が聞こえる。

やっぱ何回言われても
慣れないなぁ~…




零太くんは学校の王子様だもんね。
それは仕方ないか。
「恵恋っもう身体は大丈夫?」




「綾乃ちゃん、ありがとう!もう本当に平気だよ」




「よかった。…にしても、朝から一緒に登校ってあんたたち本当は付き合ってるんでしょ?」




綾乃ちゃんはニヤッと笑いながら
小声で話してきた。




「なっ…!そんなわけないじゃん」




もう、いきなり変なこと言わないでよ~
おかげで顔赤くなっちゃったじゃん…




「なんで付き合わないの?気になるんでしょ?」




うっ…そうだけど…
なんでって言われてもなぁ~…



零太くんは私なんかに
興味ないないだろうし。
私も別に好きってわけじゃ…
だから付き合う理由なんて
ないと思うんだけどなぁ…




「でもさっ恵恋。いつまでもグダグダしてたら誰かに零太くん取られちゃうかもよ?」




ドキッ




そんなこと考えたことなかった…

でも女に興味なんてないし
誰かと付き合うなんて考えられない。




そして放課後になり
いつものように零太くんと
帰ろうとすると明るい声が聞こえた。




「零太ー!俺も一緒に帰る!」




帰り支度を終えた凪くんが
私たちの教室へやってきた。




あれ?零太くん、嬉しくなさそう。
なんか眉間にシワ寄せてるし。
どうしたんだろう?




「恵恋っ俺も一緒に帰っていい?」

「わ、私はいいけど」




チラッと零太くんを見ると
はぁ~とため息をついていた。
あれ?!
もしかしてオッケーしちゃ
ダメだった?!




凪くんが一緒に居たため
真相は聞けず終いで
3人で教室を出たのだった。




あれ?あんなところに
他校の制服着た子が…




校門には私たちの制服とは
違う制服着た女の子がいた。
誰かを待っているようだった。




「…………美琴(ミコト)」




え?




零太くんが何かを
呟いたかと思えば
校門で待つ女の子の元へ
走って行っていた。




「…零太くん?」




私はその後ろ姿を
見送ることしかできなかった。