ねえ好きって言って 【完】

あれ、心臓の音が…




ドキドキと脈を打って
鳴り止まなかった。




熱のせいかな…?




あっ早く家に入らないと。




熱のせいで思考回路が
上手く働かずこの鼓動の意味が
よく分からなかった。




ただ零太くんのあったかい背中の
ぬくもりはよく覚えていた。




零太くん、いつもありがとう…




また熱が上がってしまう前に
ベットに横になったのだった。





-零太 side-




恵恋を家へと送り届けてから
俺は凪に電話をかけた。




流石にあのままじゃ
ダメだよな。
それに、凪が恵恋のことを
好きだって決まった訳じゃないし。




俺は心のどこかで
そうじゃないことを
願っていたのかもしれない。




「もしもし凪か?」

「……なに」

うわっ不機嫌丸出しじゃねーか。


「今から会って話がしたいんだけど」

「わかった」




とりあえず俺はベンチに
座って凪を待つことにした。

凪が本当に恵恋のことが好きなら
俺は恵恋にフリをしてもらうのは
もうやめよう。




そう決心をしたのであった。
暫くしてムスッとした
表情の凪が現れた。




「…なにそんなに怒ってんだよ」

こいつ、小学生かよ。




ドンッとベンチに腰掛けると
俺のことをじっと見てきた。




「な、なに」

「別に!!!」




うわっ相当怒ってんじゃん。
さっさと事情を話した方がいいな。




「あのさ、凪が言ってた一目惚れの相手って…恵恋のことだった?」




「…うん」




その言葉に俺の中の淡い期待は
呆気なく壊されたのであった。




「恵恋の、どこがいいんだよ」
「恵恋すっげー可愛いし、小さいし見てて守りたくなるっていうか、それに優しくって…恵恋の笑った顔がすっげー好きなんだ」




「…………って俺、何彼氏の前で言っちゃってんだよ!」




凪は顔を赤くさせていた。




俺は凪の話を
黙って聞いた。




「なあ零太、本当に恵恋と付き合ってるんだよな?」




凪は真剣な目で俺を見た。




あ、言わないと。
本当は付き合ってないって…




「俺たち、本当は…………」




その言葉の続きが出てこなかった。
くそ、なんでだよ…!




"付き合ってない"




たったこの言葉だけが
声に出せなかった。




今俺が本当のことを言えば
凪はきっと恵恋を奪う。




……そんなのは、嫌だ。




恵恋を誰にも奪われたくない。




もう訳分かんねー。
なんでだよ。
恵恋のことなんて好きじゃ…




「零太?」




「凪…」




「あぁ、本当に付き合ってるよ」
恵恋を取られたくない思いから
俺はそんな嘘をついてしまっていた。




「そっか」

わりぃな、凪。
恵恋は誰にも渡したくないんだ。




「でも、俺は恵恋が好きだから例え零太が彼氏でも手加減はしないからっ♪」




ニコッとVサインをしてきた。




「あぁ」




凪が諦めないことくらい
分かりきっていた。

…ぜってー負けねえ。




「それと、人の彼女の名前呼び捨てにすんな」




こいつが、恵恋って呼ぶ度に
なんかイラッとするんだよな。
理由は分かんねーけど。




「ふんっ恵恋と俺は友だちだからいいもんね」

「凪っ…」






「零太、これだけは言っておく。恵恋を悲しませるようなことしたら絶対許さないから」

「そんなこと分かってるってーの」




当たり前だ。
恵恋は俺が守るって決めたんだから。





-恵恋 side-




ピピピピッ――




よし、今日はもう熱はないね!




零太くんに送ってもらった日から
結局また熱が上がってしまい、
2日間ほど学校を休んでいた。




今日からやっと学校行けるっ




「いってきまーす!」




玄関を出ると私は
驚いて目をパチクリさせた。




「零太くん?!」

な、なんで零太くんがうちに…




「別に、気まぐれだから」

「言ってくれればもっと早くに出たのに!」




2日間ぶりだから
なんか緊張しちゃう…




「行くぞ」

「えっ、あ…うん!」

なんか家から学校に一緒に
登校ってなんか変な感じ。


でも迎えにきてくれて
すっごく嬉しかった。




「あのさ、なんで前凪に自分から彼女って言ったの?」

えっ!言っちゃダメだったかな?
知らない内に勝手に口が
動いちゃったんだけど…




「う~ん、なんでだろ…」

「そうか。あと、凪に彼女のフリしてるってことは言わなくていいから」

「えっ?なんで?」




てっきり零太くんがもう
本当のこと言ってるのかと思ってた。