キヨノさんも僕の隣に腰かける。

「そのうち僕は学校へ行かなくなった・・」

「そうなんだ」

「でもそしたら心配して、みんなが家にやってきたんだ。今まで僕をいじめてた奴も一緒に、毎日交代で家に来てくれたんだ。サトシ君ごめんね学校に来てね、って」

「うん」

キヨノさんは少し明るい表情になる。

「それがしばらく続いて、みんながそう言うならと思って僕は勇気を出して学校へ行ったんだ」

「うん」

「その日は水泳の授業だった。前の日に友達がちゃんと水着を持ってくるように言ってくれてて・・、明日は楽しみにしてるって」

そこで、僕はその時のことを思い出して苦しくなった。

体がふるえてくる。

不意に、キヨノさんが僕の手を握ってくれた。

不思議だった。

それだけで、気持ちがすごく楽になった。

ふるえも止まった。

「その日、僕は一度死んだんだ」

「えっ?」

キヨノさんが少しおどろいた表情をした。

「プールで一人が僕の足を引っ張って沈めた。僕はびっくりして、水面に出ようとした。そしたら上からたくさんの手が降ってきて・・、体のあちこちを押さえつけるんだ。僕は苦しくて、必死でもがいた。でも次から次へと伸びてくる手につかまって、水中に押し戻される。そして意識が遠のいて、気が付いたら病院のベッドの上だったんだ」

「ひどい・・」

キヨノさんの表情がくもる。

「後で聞いたら、僕の心臓は一度止まってたみたい。先生いわく奇跡的に助かったんだって。そんな奇跡なんていらなかったのに・・」

キヨノさんが僕を抱きしめる。

「そんなこと言わないで。だって、その奇跡が起こらなかったら、今サトシ君ここにいないじゃない」

キヨノさんは涙声で言った。