森本紀代乃は私の言うことを素直に信じて着いてきた。
もっとも、今は坂本サトシのことが心配で仕方がないのだろうが・・。
坂本サトシは極(きょく)の四谷事務所に保護してある。
あそこなら警察にも、望楽土にも見つかることは無いはずだ。
問題は、事実をどうやって二人に伝えるかだった。
森本紀代乃に関しては、望楽土から引き離す必要がある。
虚(うつろ)として完成してしまえば、すべてが台無しだ。
もっとも、虚(うつろ)になったからといって魂寄(たまよせ)が成功するというわけでもないのだが・・。
ただ、個人的には二人の恋は成就させてやりたかった。
極(きょく)がこの子達をどう使おうとしているのかは気になるが、いざとなれば私の力でなんとかなるだろう。
*
「キヨノさん」
サトシの顔が急に笑顔になる。
「サトシ君」
キヨノの顔も同じく元気になる。
私はそんな二人を見ていて微笑ましいと思った。
「キヨノさん大丈夫なの? 」
「えっ? 」
「ほら警察署で急に帰ったから・・」
「えっ? 」
当然だった。
あの時はキヨノの人格が擬人(ぎじん)に入れ替わっていた。
だから、キヨノがそのことを知るはずが無い。
また、サトシも擬人(ぎじん)のことは知らないから、訳が分からないはずだ。
「まあ、二人とも落ち着いてすわりなさい」
私は二人に言った。
「あなたはいったい誰なんですか? 」
サトシが聞いてくる。
声に不信感が含まれている。