森本紀代乃は私の言うことを素直に信じて着いてきた。

もっとも、今は坂本サトシのことが心配で仕方がないのだろうが・・。

坂本サトシは極(きょく)の四谷事務所に保護してある。

あそこなら警察にも、望楽土にも見つかることは無いはずだ。

問題は、事実をどうやって二人に伝えるかだった。

森本紀代乃に関しては、望楽土から引き離す必要がある。

虚(うつろ)として完成してしまえば、すべてが台無しだ。

もっとも、虚(うつろ)になったからといって魂寄(たまよせ)が成功するというわけでもないのだが・・。

ただ、個人的には二人の恋は成就させてやりたかった。

極(きょく)がこの子達をどう使おうとしているのかは気になるが、いざとなれば私の力でなんとかなるだろう。



「キヨノさん」

サトシの顔が急に笑顔になる。

「サトシ君」

キヨノの顔も同じく元気になる。

私はそんな二人を見ていて微笑ましいと思った。

「キヨノさん大丈夫なの? 」

「えっ? 」

「ほら警察署で急に帰ったから・・」

「えっ? 」

当然だった。

あの時はキヨノの人格が擬人(ぎじん)に入れ替わっていた。

だから、キヨノがそのことを知るはずが無い。

また、サトシも擬人(ぎじん)のことは知らないから、訳が分からないはずだ。

「まあ、二人とも落ち着いてすわりなさい」

私は二人に言った。

「あなたはいったい誰なんですか? 」

サトシが聞いてくる。

声に不信感が含まれている。