血は首につけられた傷から流れ出ている。

おそらく頚動脈(けいどうみゃく)を切られているのだろう。

首狩事件と同じやり口だ。

しかし、これをやった奴は相当のなれているな。

動いている人間の頚動脈なんて簡単に切れるもんじゃない。

それはいつも実習で、いやっていうぐらいに人を解剖しているから分かっている。

まあどちらにしても、俺の目的は達せられたわけだ。



俺は、家に向かうことにした。

島本を誰がやったか気になるが、今は気にしている場合じゃなかった。

あとはオヤジをどうにかすれば、サッシは安全なはずだ。

そんなことを考えながら、コンクリートで舗装された道を校門まで歩く。

すると、途中に人が立っていた。

まだこの距離では、暗くて誰か分からない。

「こんばんは、森本紀代乃さん」

そいつが話しかけてきた。

知らない奴だ。

「アンタ、誰?」

俺は聞いた。

「私の名前は、守屋義文(もりやよしふみ)。あなたを待っていましたよ」

「待ってた? 俺に何か用なの? 」

このやり取りをしているうちに距離が詰まる。

顔は帽子に隠されてよく見えない。

「いやね、ちょっとお話がありまして、お時間をいただきたいんですよ」

「わりぃ、俺用事があるんでね。またに、してくれっかな?」

「島本先生は元気にしてましたか? 」

守屋はニヤリと笑い、さもおかしいといった口調で言う。