血は首につけられた傷から流れ出ている。
おそらく頚動脈(けいどうみゃく)を切られているのだろう。
首狩事件と同じやり口だ。
しかし、これをやった奴は相当のなれているな。
動いている人間の頚動脈なんて簡単に切れるもんじゃない。
それはいつも実習で、いやっていうぐらいに人を解剖しているから分かっている。
まあどちらにしても、俺の目的は達せられたわけだ。
*
俺は、家に向かうことにした。
島本を誰がやったか気になるが、今は気にしている場合じゃなかった。
あとはオヤジをどうにかすれば、サッシは安全なはずだ。
そんなことを考えながら、コンクリートで舗装された道を校門まで歩く。
すると、途中に人が立っていた。
まだこの距離では、暗くて誰か分からない。
「こんばんは、森本紀代乃さん」
そいつが話しかけてきた。
知らない奴だ。
「アンタ、誰?」
俺は聞いた。
「私の名前は、守屋義文(もりやよしふみ)。あなたを待っていましたよ」
「待ってた? 俺に何か用なの? 」
このやり取りをしているうちに距離が詰まる。
顔は帽子に隠されてよく見えない。
「いやね、ちょっとお話がありまして、お時間をいただきたいんですよ」
「わりぃ、俺用事があるんでね。またに、してくれっかな?」
「島本先生は元気にしてましたか? 」
守屋はニヤリと笑い、さもおかしいといった口調で言う。