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第十六話:拓
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俺の名前は森本拓。

初めて、俺が自分を認識したのはキヨノが中学生のころだ。

そう、14歳の誕生日。

そして俺の生まれた日。

その日キヨノはオヤジにひどい目に合わされていた。

オヤジだけじゃない複数の信者に代わる代わるだ。

それはキヨノにとって初めての経験だった。

キヨノの心は耐えれなかった。

いつ終わるともしらないその状況に・・。

ただ、耐えられない逃げたい、その思いが俺を生み出した。

俺はキヨノから体を託されたんだ。

キヨノの代わりに俺が、痛みも苦しみも引き受けた。

もちろんキヨノは俺の存在なんて知らない。

でも俺は、キヨノに感謝している。

キヨノの心の中に俺を生み出してくれたことに。

俺は、生まれたときからすべてを客観視できた。

苦しみも痛みも、なんてことはなかった。

ただ、感覚を遮断(しゃだん)すればいいんだ。

そうすれば耐える必要すらない。

なにしろ感じないんだから。

誰が何を思い、何を考えているか、俺は一つ一つをつぶさに見てきた。

キヨノはかわいそうな奴だ。

誰からも愛されず、ただ望楽土の人形として育てられてきた。

いずれ、何かの器にされてしまうために・・。

でも、俺がそんなことはさせない。

キヨノをすべてから守り、キヨノを幸せにする。

それが、俺の生まれてきた意味だと思う。