僕はホテルのベッドの上で眠れないでいた。

さっきまで二人で手をつないでお祭りに行っていたのが嘘のようだった。

そんなことは遠い昔の出来事のように感じる。

キヨノさんは、出て行く前に「どうにかしてやる」って言っていた。

何に対しての「どうにかしてやる」なんだろう?

僕は、ただ、キヨノさんが好きで、一緒にいて守ってあげたいだけなのに・・。

自分の無知や無力さが辛かった・・。

せめて、何がどうなっているのか知りたかった。

仙崎は何か知っているんだろうか?

アイツは前回も、今回も僕を守ってくれた。

でもどうして、僕にそんなことが起こるって分かったんだろう?

いやな感じがするって言ってたけど・・。

それだけで、こんなにも都合よく僕のピンチに現れることができるんだろうか?

そうだ、やっぱり仙崎と話をしなくちゃ。

明日、仙崎がどこの病院にいるのか聞こう。

ギィー。

ドアがゆっくり開くような音がした。

あれっ?ドアが開いた?

僕は目をあけて入り口を確認しようとした。

部屋が暗いので携帯の画面を電気代わりに布団から出る。

立ち上がって動こうとしたその時に、背後から濡れたハンカチで口を押さえられた。

そして、首筋にナイフのようなものが押し当てられる。

「静かに。騒がなければ何もしませんから」

背後から声がかけられる。

「ゆっくりと深呼吸しなさい。暴れると殺しますよ」

僕はゆっくりとうなずいた。

「よい子ですね。私、そういう子は大好きですよ。では、深呼吸をしなさい」

僕は言われたとおり、深呼吸をした。

そいつは、耳元で「吸って吐いて」と繰り返している。

4回目の深呼吸で意識が朦朧(もうろう)とし始めた。

そして6回目を行なう前に、僕は意識を失った。


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第十六話へ続く
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