僕はこの前の事故のことを思い出した。
そして仙崎は聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声で何かをつぶやいた。
「えっ? 何? 」
僕は聞こえなかったので、そう言った。
「何でもねぇよ」
仙崎は微笑みながら、少しぶっきらぼうにこたえた。
*
花火の当日、僕とキヨノさんはコンビニの前に6時に待ち合わせをしていた。
時間が近づくと、どうしてもそわそわしてしまう。
これってやっぱりデートだよな。
僕はそんなことを考える。
何しろ、今までデートなんてしたことが無かった。
あぁ、ちょっと緊張してきた・・。
その時、キヨノさんが向こうから歩いてきた。
キヨノさんはピンク色のかわいい浴衣(ゆかた)を着ていた。
「なんか、お父さんが着ていきなさいって」
キヨノさんは恥ずかしそうに言った。
「浴衣すごく、似合ってるよ」
僕は本当にそう思った。
「あんな風に優しいお父さんは初めて。大学がんばってるからかなぁ? 」
キヨノさんは嬉しそうに言った。
「きっとそうだよ」
浴衣をくれたってことは、僕のことも許してくれているのかな?
僕はそんな都合の良いことを考えていた。