僕はこの前の事故のことを思い出した。

そして仙崎は聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声で何かをつぶやいた。

「えっ? 何? 」

僕は聞こえなかったので、そう言った。

「何でもねぇよ」

仙崎は微笑みながら、少しぶっきらぼうにこたえた。



花火の当日、僕とキヨノさんはコンビニの前に6時に待ち合わせをしていた。

時間が近づくと、どうしてもそわそわしてしまう。

これってやっぱりデートだよな。

僕はそんなことを考える。

何しろ、今までデートなんてしたことが無かった。

あぁ、ちょっと緊張してきた・・。

その時、キヨノさんが向こうから歩いてきた。

キヨノさんはピンク色のかわいい浴衣(ゆかた)を着ていた。

「なんか、お父さんが着ていきなさいって」

キヨノさんは恥ずかしそうに言った。

「浴衣すごく、似合ってるよ」

僕は本当にそう思った。

「あんな風に優しいお父さんは初めて。大学がんばってるからかなぁ? 」

キヨノさんは嬉しそうに言った。

「きっとそうだよ」

浴衣をくれたってことは、僕のことも許してくれているのかな?

僕はそんな都合の良いことを考えていた。