男が慶明大のキャンパスに入っていく。

しかも正門ではなく、裏門からだ。

そして、森の横にある研究所のほうに向かっていく。

やっぱな。

怪しいと思ったんだよ、この研究所。

全く、こんなあからさまだと誰でも気付くだろ。

さすが平和ボケ日本だわ。

アタシは少しあきれた。

男が研究所内に入るのを見届ると、明かりがついている部屋を探した。

あった。

そして、しばらく待つとその横の部屋の明かりがついた。

あの部屋が応接室か。

アタシはカバンからグローブを取り出して手にはめる。

薄い皮でできた、軍用のグローブだ。

そして、応接室と思われる部屋に近づく。

アタシは部屋の中から見えない位置にすわると、カバンの中から鏡を取り出す。

そして鏡を使って、部屋の中の様子をうかがう。

部屋の中にはさっきの男と、もう一人白衣を着た男がいた。

さすがにここからじゃ中の声は聞こえない。

アタシは、カバンの中から盗聴器を取り出した。

集めた音をデジタル処理して人の声だけを取り出す優れものだ。