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第八話:望楽土
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私の名前は島本宗次郎(しまもとそうじろう)。
表向きは慶明大学医学部教授ということになっている。
もっとも私にとっては肩書きなど、どうでもよいのだが。
私は慶明大の敷地内に、自分の研究室を構えている。
ここで、森本の娘を預かって処置を施しているのだ。
森本家は昔から慶明大学に巨額の寄付を行なってきた。
だからこの施設は大学内にあるにもかかわらず、大学関係者は立ち入り禁止になっている。
私は父の代から森本が所属する望楽土(ほうらくど)に使えている。
父はバカな男だった。
望楽土(ほうらくど)に逆らったために死んでしまった。
警察は事故死だと言っていたが、そんなはずはない。
望楽土(ほうらくど)にとって事故に見せかけることなど簡単なことだ。
私たちの役目は虚(うつろ)を作り出すことだ。
森本の娘は最高だ。
今度こそ本当に虚(うつろ)になれるかもしれない。
私は今の立場を気に入っている。
何しろ合法、非合法、気にせず研究ができる。
誰にも何も許可を取る必要がない。
ただ、森本の指示に逆らいさえしなければよいのだ。
*
「先生、キヨノの調子はどうですか? 」
森本と話すときは、いつも暗がりの中だ。
この男はこの光で物が見えているのだろうか?
「はい、順調です。もう随分、あきらめてきているはずです」
虚は生きる気力を失い、すべてに絶望することで完成する。
「そうですか。それはいい」
森本がにっこり笑う気配だけが伝わってくる。
「体力や反射神経は? 」
第八話:望楽土
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私の名前は島本宗次郎(しまもとそうじろう)。
表向きは慶明大学医学部教授ということになっている。
もっとも私にとっては肩書きなど、どうでもよいのだが。
私は慶明大の敷地内に、自分の研究室を構えている。
ここで、森本の娘を預かって処置を施しているのだ。
森本家は昔から慶明大学に巨額の寄付を行なってきた。
だからこの施設は大学内にあるにもかかわらず、大学関係者は立ち入り禁止になっている。
私は父の代から森本が所属する望楽土(ほうらくど)に使えている。
父はバカな男だった。
望楽土(ほうらくど)に逆らったために死んでしまった。
警察は事故死だと言っていたが、そんなはずはない。
望楽土(ほうらくど)にとって事故に見せかけることなど簡単なことだ。
私たちの役目は虚(うつろ)を作り出すことだ。
森本の娘は最高だ。
今度こそ本当に虚(うつろ)になれるかもしれない。
私は今の立場を気に入っている。
何しろ合法、非合法、気にせず研究ができる。
誰にも何も許可を取る必要がない。
ただ、森本の指示に逆らいさえしなければよいのだ。
*
「先生、キヨノの調子はどうですか? 」
森本と話すときは、いつも暗がりの中だ。
この男はこの光で物が見えているのだろうか?
「はい、順調です。もう随分、あきらめてきているはずです」
虚は生きる気力を失い、すべてに絶望することで完成する。
「そうですか。それはいい」
森本がにっこり笑う気配だけが伝わってくる。
「体力や反射神経は? 」