ちょうどピアスの男が倒れていたあたりだ。

「こんばんは」

街灯にかすかに照らされた顔には見覚えがあった。

警察署であった小太りの男。

柳田だ。

「今日は二人でデートかな? 」

そういっていニヤリと笑いながら近づいてくる。

柳田を見てキヨノさんはおびえているようだ。

自然とあとずさる。

「何か用ですか? 」

僕はキヨノさんをかばうように一歩前に出ながら聞いた。

「いやね、森本さんに少し聞きたいことがあってね。ちょっといいかな? 」

「あの、どなたですか?」

そっか、キヨノさんは柳田を知らないんだ。

「あっ、これは失礼。三谷署刑事部捜査一課の柳田と申します。何度も遠くからは見ていたもので、自己紹介がまだだって失念していました」

柳田はそう言って満面の笑みを浮かべた。

嫌な笑顔だ。

柳田はキヨノさんの昨晩の行動を聞き始めた。

アリバイを確かめているのだろうか?

昨日も僕はキヨノさんを家に送っていた。

でも、家に帰ってからのことは分からない。

「そうですか、ずっと家にねえ。最近この街も物騒(ぶっそう)ですから、女性の一人暮らしは心配ですなあ」

柳田は僕のほうを見ながら言った。

「もういいですか」

僕は少しむっとしてそう言った。

そしてキヨノさんと柳田の横を通ろうとした。

「また会いましょう」

柳田は満面の笑みでキヨノさんにそう言った。

そしてすれ違うとき、僕の耳に向かって低い小さな声で話しかけてきた。

「昨晩、慶明大の近くでまた首狩事件が起きているんだよ。犯人はいったい誰なんだろうね? 」