彼女は帰って来なかった。

三月になったある日、塾のドアをいつもと同じように開ける。


キィ、という音が大きく響いた。



「ああ、水島くん…」


講師たちがうずくまって皆下を向いていた。


話しているのは僕に話しかける桜木さんだけ。


「雪、ちゃんがね……」



それだけで全てを察した。


雪はもういない。


何であの時即座に答えてやらなかったんだろう。


激しい後悔が僕を襲う。


あの日あの時、何で───きりがない。


「…帰ります」


水島くん、という声を背後にドアを閉めた。