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塾に来る度、雪と話す回数が増えた。

三つも年が違って話題も当然違うはずなのに、何故か楽しかった。


好きな本の話、音楽の話、ハゲ教師のあるある話、最近の天気について。


他愛ない話が楽しかった。


しかし、その日だけは雪の様子が違った。



「…春氷、先輩」

どこか不安げで、儚くて。
笑顔が笑顔じゃない。


《えがお顔》だ。


「何?どしたん?」

「先輩に聞きたいことがあります」

「まぁ…どうぞ…?」


どうぞと言ったものの何を聞かれるのかさっぱり予想出来なかった。


本能的に、怖いと感じていた。


「私はウザかったでしょうか?誰にも迷惑、かけてませんでしたか?」


不思議な質問だった。


「何でそんなこと、」

「いっいいんです!」


雪がまた立ち上がる。


「たぶん…たぶん、ウザかったとしても私はいなくなりますから!!全部、忘れちゃうし、だから…」


「雪?」


「安心して下さい!」


涙声でまくし立てる雪に狼狽えることしかできない。

どうしたんだ、なんで。

そんな言葉しか出てこない。

「先輩。手術って痛いですか?麻酔とか」


後ろを向いていて雪の表情は見えない。