「雪ちゃんも受験生やねんよー。水島くんとは大違い」

「わ、私は…」


あわあわと困るのが可愛らしい。

制服も似合っている。

紺のブレザー、青いリボン、グレーのベストと同じ色のスカート。



僕には何だか眩しい。


ふと、胸ポケットの名札に目が奪われた。


「ダイブツ…?」

確かに《大仏》と書いてある。


なんか不憫な苗字だな。


「ダイブツじゃないです、《オサラギ》です!」 

顔を赤らめてその子が叫んだ。


「オサラギって読むんそれ!?」

「そ、そうですよ!」

賢くなった気分だ。


大仏さんは拗ねたように斜め下を向いた。


これもからかわれたんだろうな。


「…あ。大仏 雪(Osaragi Yuki)です」


「うん、何となく知ってる。僕は高砂 春氷(Takasago Haruhi)」 


「ハルヒさん…?」

「春の氷でハルヒ。分かりやすいやろ?」

はい!と快活に返事をする大仏さん。


清々しさが心地よい。


「大仏さんはどこ受けるん?」

「雪で良いですよ。私は…制服の可愛い、あの高校です」


制服ならアレとかアレの辺りかな。


「大仏じゃなくて、雪って呼んでください」


思いを巡らせていると大仏さんが目を見開いて言った。


「え?」

「オサラギって苗字、好きじゃないんです。ダイブツって言われるし…でも割と雪って呼び捨てされるのは気に入ってるので」

それなら、と自然に雪にシフト。 


「んならそっちも春氷でいいよ」 


えへ、と嬉しそうに笑った。


花みたいだ。


「ああっ!!」

突然、雪が立ち上がる。


「な、何!?どうした!?」

「私今日…けん、用事があったんでした!!」


顔を真っ青にして立ち上がると、瞬く間に本を片付け靴を履いた。