涼鈴が厩舎の奥を覗いてみたり、キョロキョロ辺りを見回していると、突然後ろから背中をつつかれて、慎彰は思わず変な声をあげてしまった。涼鈴が振り返る。
「あ、いた」
どうやら、慎彰の背中をつついた人物が楊修紅という医術師らしく、慎彰は今度こそ自分から挨拶をしようと、勢いよく後ろを向いた。
「わっ」
それは一瞬のことで、 視界がぐにゃんと歪んだかと思うと、 顔中の血がさぁぁ、と引いたような感覚にみまわれ、足がもつれた。気付くと、力強い腕にだきとめられていた。
「おい、坊主、大丈夫か」
ぽーっとする頭で、今日はみっともないところを見せてばっかりだな、と思った。





涼鈴がちょっと、大丈夫?と驚いている。修紅は、たおれこんできた少年を肩に抱き上げて、日陰になっている井戸まで歩いて行った。
井戸端にいた穹が、こちらの様子に気づいて鶴瓶を下ろし、涼鈴は機転を利かせ、布や塩壺を取りに 厨房に入っていった。

いくらか冷たい敷石の上に下ろしてやり声をかけると、少年はぱちっ、と目をひらいて、しっかりとした応答をした。穹が汲んだ水に、帯に挟んでいた布巾を浸す。
「俺が、鷺凰院の楊修紅だ。北吾の冱蘇ばあさんの次男坊の息子で合ってるな?」
頷いた少年が起き上がって挨拶しようとするのを止めて、修紅は布巾を絞って彼の額と頸にあてがう。
「熱射病だな。たく、医術師になろうってやつが、これじゃいかんだろう。静かにしてろ」