故郷とは違う種類の蝉が、煩く鳴いていた。ジーワジーワと、うだる暑さとともに体にしつこく染み込んでくる。
慎彰が、街で教えてもらった通りに来たんだけどな、と迷っていると、三人の自分と同年代の人たちに出会った。どうやら目指している鷺凰院の童子らしく、多少食い気味に、快く案内を申し出てくれた。

緩やかな坂の突き当たりには、石造りと木造が組み合わされた建物が構えていた。窓という窓が開け放たれている。幾つかの棟が短い回廊でつながっているようだが、半分ほどが林の陰に入っていて、衝立に塞がれた入り口のある棟だけが、強くなってきた日差しに焼かれていた。
先ほど穹と呼ばれていた少年は、迷わず木の繁っている方に進み、建物の裏手へと回っていった。井戸でもあるのだろうか。
そんなことをおもっていると、荷物を持ってくれている少女が、信じられない大声を上げたので、慎彰はびく、と飛び上がった。さっきから顔が尋常でなくほてっており、声も耳の奥でぐわんぐわんと反響する。
「索師!今、暇ですかー?!」
なにー、と木陰のほうから声が聞こえた。
「おじさぁん、どこにいるんですー?」
「そんな大声出さなくても聞こえるってば」
返ってくる声は男性にしては少し高めで、色気がある。特徴的なだと思った。
裏手から、桶を抱えて一人の男が現れた。この暑さだというのに、袖も捲らず青い袍をきっちり着ており、さらに口と頭を白い布で覆っていた。みているこっちが蒸されそうな格好のまま、男はよっこいせ、と大きな桶を下ろし、こちらへよってきた。