4時限前の休み時間は短い。


「いのー、こっち。」

「はい、これ」



椎名を見つけると私は英和辞典を椎名に渡す。

結希が言っていた通り、椎名は私の彼氏だ。リア充ですよ、ええ。


「おお、ありがとう」


ヘラヘラ〜っと椎名が微笑む。
椎名の印象を一言で表すと、頼りない感じ。ヘラっとしていて、妖怪スピーカーとはまた違う笑顔を持っている。眉を八の字にした優しい笑顔。


椎名のくりっとした瞳がぱちぱちっと動いた。


「あれ?いの、シャンプー変えた?」

「うん、切らしたからお母さんの使った」


よく気づいたなぁ。シャンプーにこだわりがある訳じゃないけど私は同じものを結構使い続けるタイプ。私のお母さんはというと毎回違う種類を買っていろいろ試すタイプ。だから、風呂場にはシャンプーが数種類いつも並んでいる。


「椎名ん家、柔軟剤変えた」

「お、よく気づいたね。セールで安かったから浮気しちゃったって母さんが言ってたわ」


たまたまだ。白いシャツに風が当たって香ったのがうちの柔軟剤と同じ匂いだからそうなのかなと思っただけ。

椎名は香水やコロンなんてものは使わない。いつも柔軟剤の匂いが体を纏っている。

それにしても椎名は細いな。そして白い。椎名は妖怪スピーカーみたいにイケメンではない。でもその容姿が目に止まるような容姿をしているのは事実だ。

高過ぎず低くもない身長、細くて柔らかそうな黒髪は鎖骨あたりまで伸びている。その長さ、校則的にアウトだろ。うん。

前髪は斜めに流されている。本当に特別かっこいいってわけではない。だが椎名の容姿には何か惹かれるものがあるのだろう。椎名もまた、妖怪スピーカーと同じように学校内で知らない人は居ないと思う。

椎名の事を聞けば、ああ、あの人ね。と、その程度だけど皆んな認知している。


「じゃあ戻る、返すのはいつでも良いから」

「はーいっ、またな」


そろそろ時間だなと思い、教室へと戻る。


椎名の身長は変わらないな。私よりは高いしそれだけあれば十分だけど。
妖怪スピーカーの身長は高過ぎる。