「蜜乃?」

数秒置いたあと緋由が出したその単語に私はピクリとつい反応を示してしまった。
なんでこうコイツは勘が鋭いんだ。
軽く呪ったような視線を腕の中から鼻から上だけを出した状態で向けると緋由は私をなだめるようによしよしと頭をなでた。

「……ったく。しょうがないなぁ。お姉さんが話を聞いてあげよう」

「お姐さん、の間違いでしょ」

「ねぇ、叩いていい?」

「ごめんなさい」

軽い嫌味を言ったら本気の目線(少なくとも私にはそう見えた)でそういわれたので、素早く謝っておいた。だって、怖いよこの人。

「あ、話ずれちゃったね。ほら、ちょっとは人に話したほうが楽になるよ?あ、別に言いたくない事まで言えと言ってことじゃないよ?別に今五月が話したくなければ離さなくても良い。」

「……緋由」

「ね?」

頭なでられながらそんな優しい言葉言われたら誰でも落ちるんじゃないでしょうか。現に私が落ちたよ。
私はぼそりと喋りだした。

「それがね」

「うん」

「蜜乃が」

「委員長ー!ちょっといいかぁ?」

私の声は同じクラスの男子の声によって遮られた。
緋由は「わかった。今行くー」と返事をし、椅子から立ち上がりながら私に「また今度できれば聞かせて」と言って、その声の持ち主のもとへ行った。

「あー…うん」

そう私が返事した時には緋由は呼んだ男子の元へとっくに着いていた。

(ちくしょう、鈴木め。覚えてろよ)

そう思った私の小さな怒りを掻き消すかのように、掃除の時間を知られるチャイムが鳴った。