謁見の間を出たルカは、石畳の回廊を音を立てながら足早に歩いていた。
彼の表情は堅く、全身から怒りの感情が溢れている。

(何者かに浚われただと?
 そんなことがあるものか。この城の警備は、完璧だ。
 自分で逃げ出したに決まっている)

 王子たちを見送った後、同じ言葉を国王に投げかけたが、
アイリスが逃げ出したのに気付けなかったことを指摘され、責任を問われると、
しぶしぶ言葉を飲み込むしかなかった。

 ただ言い訳をさせてもらえていたなら、
ルカたちの警備は、あくまで外部からの侵入者に対する警備であり、
内部から出て行く者がいることを想定としていない。
 普段からよく城を抜け出すアイリスのことはよく知っているルカだったが、
まさかこんな大事な日に城を抜け出すとは思いもよらなかったのだ。 

『国際問題じゃぞ。最悪、戦争になるぞ。
 お前にその責任がとれるのか』

 そう国王に迫られては、ルカも押し黙るしかなかった。

(あのクソ狸めっ、娘が娘なら、父親も父親だ)

 5人の王子たちを前にして、よくもあそこまで堂々と嘘がつけるものだとルカは呆れていた。
もし、誘拐騒ぎが虚言であるとバレたら、それこそ国際問題になるだろう。
これはもう一刻も早くアイリス姫を見つけて、連れ戻さなくてはいけない。

 そこに一人の衛兵がルカの後方から声を上げて駆け寄って来た。

「こ、近衛隊長殿~!
 お待ちくださいっ!」

「私は忙しい。用なら後にしてくれ」

 振り返りもせず足を止めようとしないルカに、
 衛兵は置いて行かれないよう、歩調を合わせながら一歩後ろから付いて歩く。

「一体どちらへ行かれるおつもりなのですか?」

「じゃじゃ馬娘を連れ戻しに行くんだ。
 邪魔をするなっ!」

 衛兵が驚いた顔で聞き返した。

「そ、それは……アイリス姫のことで?
 しかし、捜索隊の指揮は如何なされるおつもりですか?」

「そんなものは必要ない」

「ぇえっ?!
 そ、そんなぁ、誘拐された姫君はいかがなされるのです」

 アイリスが自分から城を抜け出したことは、国王と近衛兵隊長のルカと、近しい側近一部のみしか知らない。
ルカに追い縋るこの衛兵も、アイリス姫は何者かに誘拐されたという話を信じている。

(……いや、待てよ。
 俺が姫を見つけられるとも限らない。
 ここは、隊を動かした方が早いか……)

 思わず怒りに冷静さを失うところだったが、まずはアイリス姫を見つけ出すことが何よりも最優先だ。
 ルカは、足を止めると、衛兵を振り返った。

「隊には、あの5人の王子達の同行を探るよう指示しろ。
 指揮は、お前に任せる。
 何かあれば、すぐに私に連絡するんだ」

 もし、5人の王子たちが先にアイリス姫を見つけてしまえば、
アイリス姫が誘拐されたのではないと知られる恐れがある。
その前に、何としてでもアイリス姫を見つけ出し、口裏を合わせておく必要があるだろう。

「……わ、私がですか?!」

 衛兵は、突然振られた責任重大な役目に、目を白黒させている。
ルカは、それだけ言うと、再び衛兵を残して、城の外へと向かった。

(あのじゃじゃ馬娘め!
 今度という今度こそは許さないぞ!)

 *

 その頃、城を抜け出したアイリス姫は、一人、城下町を彷徨い歩いていた。

(ふぅ……何とか無事に城を抜け出せたわね。
 いつもより城の警備が厳しくて手間取ってしまったわ)

 今頃、お父様とルカは、カンカンに怒っていることだろう。
想像すると、今にも怒ったルカが道角から飛び出して来そうで、
アイリスは、身震いしながらマント付きのフードを目深に被り直した。

(でも、これで私は、自由の身)

 見上げた空は、どこまでも広く、今なら何でもできそうな気がした。

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※ここから先は、各王子たちのルートに別れて、ストーリーが進みます。
 特に順番はありませんので、お好きな章からお読みください。
 ただし、隠しキャラルートについては、他の王子たちのストーリーを読んでから読むことをお勧めします。