国王は、5人の王子それぞれの反応を確認すると、難しそうな面持ちで首を横に振った。

「残念ながら……犯人は、まだ解らない」

 その言葉に王子たちが深刻そうな表情で俯く。
これでは、生誕祝いや婚約の話どころではない、といった様子だ。

 しかし、オーレンだけは、どこか納得のいかない顔で国王を見上げた。

「……腑に落ちないな。
 何者かは知らんが、そう簡単に城の警備を掻い潜り、アイリス王女を浚う事が可能だろうか」

 それを聞いて、他の王子たちの顔に疑念が浮かぶ。

「た、確かに……。
 警備の厚い城内にわざわざ忍び込んでくる輩なんて……正気の沙汰とは思えませんね」

 リュグドがオーレンの言葉に同調して、考えるような仕草をする。

 国王は、内心焦った。

(ほぅ、なかなか鋭いの……
 確かこの中で一番の年長者じゃったか。
 顔だけじゃなく、頭も切れそうじゃわい。
 ……じゃが、ここはどうしても納得してもらわんといかん)

「それとも……
 この城は、そう易々と何者かの侵入を許す程、警備が緩いとでも仰るのか?」

 オーレンの挑発するような口調に、
 国王がどう説得しようかと思案していると、王子たちの後方から声が上がった。

「全ては、私の過失です」

 王子たちが一斉に声のした方を振り返った。
そこには、軍服を身に纏い、栗色の髪を一つに束ねた青年が立っていた。
 
「彼は?」

 楊賢が国王を振り返って訊ねた。

「おお、これは失礼。ご紹介が遅れましたな。
 ……ルカ、ご挨拶を」

 国王に〝ルカ〟と呼ばれた青年は、右の拳を自分の左胸に当てて敵意がないことを示すと、
王子たちに向かって真っすぐ一礼して見せた。

「この国で近衛隊長を務めさせております、ルカ=セルビアンと申します。
 以後、お見知りおきを」

 アランが相手の力量を見極めるかのように、ルカの頭から足まで視線をやった後、
どこか面白がっているような表情で口笛を吹いた。 

「ふーん、近衛隊隊長さんにも手に負えなかった、と。
 よほどの手練れらしい」

 そんなことはどうでもいい、というようにオーレンが冷めた目で国王を振り返った。

「だから姫はここにはいない。
 よって、この婚約話はなしとしてくれ、とでも?」

 国王が慌てて両手を上げる。

「とんでもない。
 むしろ、その事で、貴殿らにお願いがあるのです」

 その言葉に、リアードが振り返り、首を傾げる。

「どういうこと?」

(しめしめ、ルカのお陰で話が逸れたわい。
 これで本題に入れる……)

 国王は、内心ほっとしながら話を切り出した。

「わざわざ来国して下さったというのに、誠に心苦しいのですが……」

 国王は、5人の王子たちが見上げる中、堂々と悲劇の父親を演じ続けた。

「どうか姫を見つけ出し、連れ戻して下さらないだろうか?
 ついては、姫を無事に連れ戻して下さった王子に姫を承りたい」