そんなこんなで日は暮れて……
地平線の向こうに落ちていく真っ赤な夕陽を眺めながら、ルカが眉間に皺を寄せた。
「……しまったな。
暗くなる前に、どこかの村に辿り着ければ良かったんだが……
今日は、この辺りで野宿するしかないな」
「そうね……まあ、仕方ないわよ。
私、野宿って、前からちょっと興味あったのよね。
冒険してる! ……って感じがするわ♪」
「……ホント、お前って奴は、とことん幸せな奴だな。
自分が狙われている自覚があるのか」
「そうなったら、ルカが助けてくれるでしょ?」
私がにっこり笑って答えると、ルカは言葉に詰まった。
「それに、少しなら私も剣が使えるようになったし!
もしもの時は、後ろは任せろっ、よ!」
「いや、全然だからな。
お前がやってるのは、ただのお遊戯だからな」
「あ、見てっ。あっちに湖があるみたい。
あそこで野宿しようよ♪」
「聞いてないな。
……ふぅ、まあいいか」
その時の私は、憧れていた自由な旅をしている喜びに、ルカとの楽しい会話が続いたおかげで、完全に心が浮き足立っていた。
昨夜のことは、私が見た悪い夢で、白い男など最初から存在していなかったのだ、とすら思うようになっていた。
我ながら能天気な性格だとは思うが、性分なのだから仕方がない。
私たちは、道すがら拾って歩いていた薪を重ね、火をつけた。
ルカは、逆賊たちに見つかってしまうのではないか、と渋っていたが、
この辺りは野獣が出ることもある、という話をルカから聞いた私が断固拒否し、
ルカに火をつけることを無理やり同意させたのだ。
この季節は、夜でも暖かいので、火がなくとも毛布1枚あれば充分に寝られる。
それでも私は、寝ている間に野獣に食べられて死んでしまうような終わり方だけは絶対に嫌だった。
携帯食を食べて人心地がつくと、ずっと歩き続けていた疲れがどっと押し寄せてきた。
ぱちぱちと爆ぜる薪の火を見つめていると、自分が今どこにいるのか一瞬わからなくなる。
「眠いか?」
「……あ、ううん。大丈夫」
ルカに声を掛けられて、私は、自分がぼうっとしていたことに気が付いた。
ルカは、私が疲れていると思ったのだろう。
「無理しないで寝ていろ。
俺が見張ってるから」
ルカは、私の小さな虚栄すら見破ってしまう。
でも、このままではダメなのだ。
「……ダメだよ。
いつも、ルカにばかり頼ってちゃ。
私だって、がんばらないと。
ここはもう、お城じゃないんだから……」
「アリス……」
私たちは、しばらく黙って、薪の火を見つめていた。
火の爆ぜる音が嫌に大きく聞こえ、一層辺りの静寂さを助長している。
辺りは真っ暗で何も見えず、火の灯りが照らしている場所だけが世界の全てに思えた。
暗闇の中から野獣が私たちを狙っているかもしれない、
と考えると怖かったが、私は、ルカが隣に居てくれるだけで安心できた。
(ルカは、いつも私のことを守ってくれる)
ルカが私付の護衛となった時から、いつしかそれが当たり前のようになってしまっていたけれど、
国を捨て、 “姫” ではなくなった私とルカの関係は、一体何と呼べば良いのだろうか。
(ルカは、私のこと……どう思っているんだろう……)
私は、火を見ているフリをしながら、そっとルカを盗み見た。
ルカは、じっと火の中を見つめて、何かを考えている風に見えた。
何を考えているのだろう、と気になった私が口を開きかけた時、ルカがぽつりと呟いた。
「俺……本当は、少し後悔してるんだ」
地平線の向こうに落ちていく真っ赤な夕陽を眺めながら、ルカが眉間に皺を寄せた。
「……しまったな。
暗くなる前に、どこかの村に辿り着ければ良かったんだが……
今日は、この辺りで野宿するしかないな」
「そうね……まあ、仕方ないわよ。
私、野宿って、前からちょっと興味あったのよね。
冒険してる! ……って感じがするわ♪」
「……ホント、お前って奴は、とことん幸せな奴だな。
自分が狙われている自覚があるのか」
「そうなったら、ルカが助けてくれるでしょ?」
私がにっこり笑って答えると、ルカは言葉に詰まった。
「それに、少しなら私も剣が使えるようになったし!
もしもの時は、後ろは任せろっ、よ!」
「いや、全然だからな。
お前がやってるのは、ただのお遊戯だからな」
「あ、見てっ。あっちに湖があるみたい。
あそこで野宿しようよ♪」
「聞いてないな。
……ふぅ、まあいいか」
その時の私は、憧れていた自由な旅をしている喜びに、ルカとの楽しい会話が続いたおかげで、完全に心が浮き足立っていた。
昨夜のことは、私が見た悪い夢で、白い男など最初から存在していなかったのだ、とすら思うようになっていた。
我ながら能天気な性格だとは思うが、性分なのだから仕方がない。
私たちは、道すがら拾って歩いていた薪を重ね、火をつけた。
ルカは、逆賊たちに見つかってしまうのではないか、と渋っていたが、
この辺りは野獣が出ることもある、という話をルカから聞いた私が断固拒否し、
ルカに火をつけることを無理やり同意させたのだ。
この季節は、夜でも暖かいので、火がなくとも毛布1枚あれば充分に寝られる。
それでも私は、寝ている間に野獣に食べられて死んでしまうような終わり方だけは絶対に嫌だった。
携帯食を食べて人心地がつくと、ずっと歩き続けていた疲れがどっと押し寄せてきた。
ぱちぱちと爆ぜる薪の火を見つめていると、自分が今どこにいるのか一瞬わからなくなる。
「眠いか?」
「……あ、ううん。大丈夫」
ルカに声を掛けられて、私は、自分がぼうっとしていたことに気が付いた。
ルカは、私が疲れていると思ったのだろう。
「無理しないで寝ていろ。
俺が見張ってるから」
ルカは、私の小さな虚栄すら見破ってしまう。
でも、このままではダメなのだ。
「……ダメだよ。
いつも、ルカにばかり頼ってちゃ。
私だって、がんばらないと。
ここはもう、お城じゃないんだから……」
「アリス……」
私たちは、しばらく黙って、薪の火を見つめていた。
火の爆ぜる音が嫌に大きく聞こえ、一層辺りの静寂さを助長している。
辺りは真っ暗で何も見えず、火の灯りが照らしている場所だけが世界の全てに思えた。
暗闇の中から野獣が私たちを狙っているかもしれない、
と考えると怖かったが、私は、ルカが隣に居てくれるだけで安心できた。
(ルカは、いつも私のことを守ってくれる)
ルカが私付の護衛となった時から、いつしかそれが当たり前のようになってしまっていたけれど、
国を捨て、 “姫” ではなくなった私とルカの関係は、一体何と呼べば良いのだろうか。
(ルカは、私のこと……どう思っているんだろう……)
私は、火を見ているフリをしながら、そっとルカを盗み見た。
ルカは、じっと火の中を見つめて、何かを考えている風に見えた。
何を考えているのだろう、と気になった私が口を開きかけた時、ルカがぽつりと呟いた。
「俺……本当は、少し後悔してるんだ」