夕日というのは、なぜこんなにも見る者の心を切なくするのだろう。
私は、草原の向こうに消えていく赤い陽の塊を、ただ黙って見つめていた。

ルカの話し方をからかうのにもさすがに飽きてきていた。
その甲斐あって、ルカは、敬語を使わなくても話せるまでになったけれども。

それよりも私は、ずっと馬の背中に乗り続けていたせいで、
お尻と太ももの痛みからいつ解放されるだろうと、そればかりを考えていた。

「……もう日が暮れちゃうわ。
 馬も疲れてきたみたいだけど、まだこのまま進むの?」

さすがにルカに向かって、お尻が痛いわ、と言えるほど私は女を捨ててはいない。

「この辺りに小さな村があるから、そこで宿を取ろう。
 そろそろ見えてくる筈なんだが……」

「……あ、向こうに見えるのがそれじゃない?」

「ああ、そうみたいだな。
 あと一踏ん張りだ、がんばってくれよ」

ルカが馬に優しく声を掛けてやると、それに答えるかのように馬が声を上げた。

私たちが村に着く頃には、すっかり日は沈み、当たりは暗闇に包まれていた。

「もう真っ暗だな。
 早く宿を探さないと……」

「……ねぇ、なんだか村の様子が変じゃない?」

「変?」

「なんだか……荒んでるって言うのかな。
 だって、いくら暗くなったからって言っても、まだ夕飯時よ。
 なのに、どこの店も家も……明かりが消えてるって、おかしくない?」

「……確かに。
 酒場までもが閉まっているのは、妙だな」

「こんな村に、宿なんてあるのかしら」

「……とりあえず、村の探すしかないさ」

私は、不安な気持ちで馬を進めた。
暗がりに目を凝らしながら灯りの付いているお店を探すが、
どこも戸を固く閉じて、灯り一つ見えない。
まるで村全体が死んでいるかのようだ。

「結局、村のはずれまで来てしまったか。
 本当にどこの店も開いていなかったな……」

「……あ、あれ宿屋じゃない?
 もうこの際、開いてなくても、扉を叩き起こして泊めてもらおうよ」

「…………いや、明かりが点いてるみたいだ」

ルカに言われて、私は、宿屋らしき家屋をよくよく目を凝らして見た。
ぱっと見は分からなかったが、閉め切った窓の向こう側が薄っすらと透けて見える。
蝋燭のような小さな明かりがカーテン越しに漏れているようだ。

「馬小屋……もあるみたいだな。
 それじゃあ俺は、馬を繋いで来るから、
 アリスは、先に中へ入って、空いている部屋がないか確認してくれるか」

「わかったわ」

「それじゃあ、お金を渡しておく。
 お金の使い方は……」

「失礼ねっ。いくら私でも、それくらい解るわよ」

私は、ルカからお金の入った巾着袋を受け取ると、
やっているのかどうかすら怪しいボロ宿屋の中へと入って行った。

「……いらっしゃい」

古びた音を立てて扉を開けると、男の人の低い声が私を出迎えた。
正面のカウンターに不愛想な顔をした中年男性が座ってこちらを見ている。

(うわっ……何だか怖そうな人ね)

その目つきは、まるで獲物を捕らえようとする鷹のような鋭い目をしていた。
私は、恐る恐るカウンターへと近づく。

「……一部屋かい?」

「いいえ、連れがいるの。
 二部屋用意できる?」

「それなら……
 休憩5千#G__ゴールド__#、一泊2万#G__ゴールド__#だ」

「……に、2万G?!」