あの鉄骨の崩壊の中から逃げ延びられるとは思わなかった。

黛さんの瞬間移動さまさまだ。

俺は体を横たえながらそう思う。

「ごめんね、小山田君。ちゃんとしたベッドに寝かせてあげたい所なんだけど…」

黛さんが俺に向かって言う。

…ここは先程の建設現場から程近い月極の駐車場の片隅。

駐車している車の陰に隠れ、俺達は休息をとっていた。

「頭痛はどう?」

言いながら黛さんは俺の額によく冷えたタオルを当てる。

コンビニで買ってきたタオルを、これまた買ってきたロックアイスで冷やしたものだ。

…ひんやりとした感触が心地いい。

「黛さん…」

少し呼吸も落ち着いてきて、俺は黛さんの名を呼ぶ。

「ん?喉渇いた?スポーツドリンクとかも買ってきてるよ。それともお茶の方がいい?」

気遣ってくれる彼女に向かって。

「ありがとう…何度も助けてもらって…」

俺は精一杯の笑顔を浮かべた。

「や、やだ…やめてよ、そういうの」

黛さんは照れ臭そうに視線をそらす。

「元はと言えば私が小山田君に注射したのが原因なんだから…小山田君が感謝する必要なんてないのよ」

「でも…」

最初は1号とグルかもしれないとか、色々疑ったりもしたけれど…ここまで命懸けで俺の事を守ってくれた事を考えると、黛さんは本気で俺の事を心配してくれているのだとわかる。

「ほんとに感謝してます…ありがとう」

「止してってば」

黛さんは恥ずかしそうにはにかんだ。