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「っくしゅ! ……あー……」


まった誰か噂しとんな。


すんと鼻を啜ってぶるりと体を震わせる。くしゃみのあとに一瞬毛が逆立つのは何故だろう。


不意に零れた生理現象に足を止めた俺は、鼻の下を擦りながらなんとなしに縁側から遠くの空を見上げた。


どこまでも続くくすんだ空からは冷たい雪が静かに舞っている。


もうじき日が暮れる。屯所の庭木にうっすらと積もり始めているそれは、きっと溶けることなく朝を迎えるのだろう。


寒いし目立つし動きにくい、毎年の事とはいえ冬は憂鬱だ。


早よあったかなって欲しいわぁ。



「ちょっと良いかい、山崎さん」


羽織の袖に手を引っ込めて再び歩き出したところで、今度は人の声に呼び止められた。


振り返るとにやけた男が三人。


一本差しに剣の腕はほぼ我流、だががたいだけは矢鱈と良い、所謂三下な連中。


最近よく目にしていたその顔には嫌と言う程見覚えがある。


一郎、次郎、三郎(仮名)や。



「なんやろ?」

「いやぁちょいと聞きたいことがあってねぇ」


笑って返すと、その中でも一等下っぱだろう三郎が猫なで声で一歩近寄る。


あーやっぱ俺こいつ無理、気色悪ぅ。


「うん?」

「面白い話があるんだが、お前さんもどうだい?」


おもろい話、なぁ。


「そーゆうんは好っきゃで」


にぃと悪戯っぽく笑ってみせると、安心したのかそいつは僅かに顔を緩ませ再び口を開いた。