「まぁそういう訳じゃないんだろうけど、賑やかな分、前より話し掛けやすくなったってのはあるみたいだよ」
だから気を付けて?、と小首を傾げる平助には頷くしかない。こんな男所帯で色恋沙汰で悪目立ちなんて正直御免だ。
それにあまり人目を集めるのは避けたいところ。女だとばれる危険性が増すのはやはり困る。
「だけどさぁ」
よしよしと私の頭を叩きながら平助が不満げに声をあげた。
「山崎さんって下心見え見えでなんか嫌だな。ちょっと知ってるからって総司に馴れ馴れし過ぎ」
「ですよねっ」
全く以てその通り。いっそがつんと言ってやってください。
あの人が変に付きまとってこなければ妙な話も出なかった訳で。
あの人がうちに来なければ私だって今まで通り平穏無事に過ごせた訳で。
……もしかすると芹沢さんの呪いなのかも。
全ての始まりであるあの夜を思い出して、一人深く溜め息をついた。
「総司」
平助と二人、文句に花を咲かせていると、微かに布が擦れる音をたて居住まいを正した一くんがこっちを向いた。
「遠慮は、するなよ」
奥二重の涼しげな目はいつもより真っ直ぐで、真剣だ。何かあれば相談しろということなんだろう。
私を知る人は皆、とても優しい。
それはとても嬉しい。
けど、ほんの少し、ちくりと針で刺されたような痛みが伴うのはきっと、その瞳の奥に同情のようなもの透かし見てしまう気がするから。
「……はい。じゃあそろそろ夕餉、行きましょうか」