「俺も、長い方が良いと思う」
いつもはあまり表情を変えない一くんなのに、ほんの少し柔和に緩められた顔に何とも言えない嬉しさが込み上げる。
無口な彼は決してお世辞を言うような人間じゃない。だからこそその一言は結構本気で嬉しかった。
「ならやめときます」
素直にそう思える程に。
それに……このたまに見る笑みはあの人のそれと被るから。
ふとした時、自分だけに向けられた笑顔というのは至極嬉しいものだと思う。
「もー、一くんが言うとすぐ聞くんだから」
「そりゃ言葉の重みが違いますもん。でもまた濡れてたら拭くの手伝ってもらえます?」
「勿論! 総司の髪好きー」
少しくらい拗ねても平助の扱いは慣れたもの。
事情を知らない隊士達が聞いたらあらぬ誤解を受けそうな気もしないでもないけど、部屋の中でくらいは良いだろう。
「私は平助の髪が羨ましいですけどねーふわふわで」
「えー雨の日とか大変なんだよこれ。寝癖もなかなか取れないしさぁ」
「そーいや今日も跳ねてますもんね、ここ」
愚痴りながらも慣れた手付きで私の髪を結んだ平助を振り返り、そっとその髪に手を伸ばす。
細く柔らかな猫っ毛がぴょこんと片方だけ動物の耳のように跳ね上がっていて、実は朝から気になっていた。
気にしてないようで実は気にしていたのかと思うと、つい笑みが零れた。
「似合ってますよ」
壬生寺に住み着いている犬のようです。