虐めてやりたい、困らせてやりたいと思う女は初めてだ。


それでも今他の誰よりも触れたいのもあの女だから。


明日こそは絶対襲ったる。


そんな思いで月を睨んだ矢先。


少し離れた縁側に、一つの気配が立った。


夜の帳が落ちた今、草木が風に揺れる他に動くものは何もない。


これはきっと天からの思し召し。


にやりと笑みを湛えて身を起こすと、下にいるそいつに気取られぬよう俺は静かに瓦を蹴った。






「そーちゃーん」

「ひぃっ!?」


目の前の庭に降り立てば、沖田はまるで化け物か何かを見たのかのような声を上げて後退る。


下ろされた髪、薄い寝間着に羽織を肩に掛けただけのそいつはどこからどう見てもただの女だ。


「んな恰好で彷徨いとったら襲われたかて文句とか言われへんしな」

「……へ?やま、わっ!?」


ぱちぱちと瞬きする沖田が俺を俺だと認識する直前にその体を肩に担いで縁側を降りる。


行く先は一つだ。



「ちゅーことで、お仕置き」

「ひ……っ!?」





此処なら逃げられへんやろ。


高い所が苦手なのは相変わらずなようで、息を吸い込むだけの悲鳴をあげた沖田は屋根に上がったあとも固まったままピクリともしない。


取り敢えずむんずと掴まれた背を放してもらわなければ下ろすことも出来なくて。


「総ちゃん着いたでっ!?」


ぽんぽんと尻を叩いてみた途端、後頭部に肘が飛んできた。