どれだけ注意力が散漫になっていたのだろう、突然の声に驚いて思わず漏れたのは可笑しな返事だった。
「……猫の真似事か?」
襖の向こうから返ってきた一くんの冷静な言葉が妙に恥ずかしい。
抑揚がなさ過ぎて本気で言ってるのか冗談なのかわからないからこれまた微妙だ。
くぅ……猫ねこ考え過ぎた……。
さっきから何度も上がった体温に幾分ぐったりしながら、よろよろと立ち上がって襖を開ける。
「違います。ちょっと噛んだだけです。どうぞ気にしないでください」
「…………そ……ろそろ夕餉だから髪を乾かしたかと確認しようと思っただけだからすぐに着物を直して髪を乾かせっ」
パシン
なのに珍しく早口で慌てた様子の一くんに直ぐ様襖が閉められて。
どうし……。
理由がわからず首を傾げたところで漸く今の言葉が理解出来た私は、ふと大事な事を思い出した。
そういえばさっき暑くて衿を開いた。
直した記憶は、ない。
……。
「すっ!すすすみませんっ!!」
わわわ私ってば変な姿を見せて恥ずかしいっ!!
特別大きくはだけさせた訳ではないけれど、下を向けば巻いたさらしがばっちり目に入る。
そりゃこんなことになっていれば誰だって目がいくだろう。
駄目駄目過ぎます!!
色恋に気を取られているからこうなるのだ。
あー馬鹿馬鹿馬鹿っ!
火を噴きそうに茹だった頭でそう己を戒めて、私は慌てて着物を直した。