確かに擽ったかった。
でもあいつの唇が触れた所からじわりと熱が広がったのは、単にそういうのに弱いからというのだけじゃない気が……した。
あいつの感触を思い返すだけで体が緊張して、内側を何かがざわざわと這い上がる。
きゅうっと押し潰された胸に喉がつかえて、呼吸を忘れそうになる。
全身を駆ける甘やかな熱に、ぞくりと毛が逆立つ。
そこに仄めく感情を、私は知っている──
「ーーっ!」
パチンと勢いよく頬を打って大きく息を吐き出す。そこから逃げた熱に一瞬、体が震えた。
違う……違います。そんなのじゃない。
浮かんでしまった考えを振り払おうと、そう自分に言い聞かせてみても、トクトクといつもより早く脈打つ心の臓が主張を止めない。
それは、平助には湧かなかったもの。
懐かしい、感覚。
捨てた筈の、感情──
「……はぁっ」
頬を包んでいた掌が汗で湿る。
再び止まっていた息を一気に吐き出して、そのまま畳の上に寝っ転がった。
指先までが火照ってる。
どうにも暑くて重ねた衿を少しだけ開いて、ゆっくりと深呼吸する。
未だ小刻みに脈打つ胸に手を置いて横向きに体を丸め、ぎゅっと目を閉じる。
その奥に確実に根を張る感情を、もう、見ないふりは出来なかった。