『ほら、雛乃?』
「…っ」
『呼ばないと帰さないよ?』
き、鬼畜だ…!
この時初めて千尋くんは意外と鬼畜性があることを知る。
っていうか、千尋くんって隠れSだよね…!ドSまではいかないまでも、Sっ気高いよね!
『雛乃?聞いてんの?』
「うっ、うん!」
聞いてる聞いてる、と首を上下に素早く動かすと、千尋くんはなら早く、とせがんだ。
「ち、ちひろ……――くん。」
『はい、ダメー。』
「うー…っ」
許して…。
本当にダメなんだって。千尋なんて呼び捨て、身も心も持たないから。
ただでさえ千尋くんって呼ぶのに苦労したっていうのに。
『雛乃が"千尋くん"って呼んだら、俺も"雛乃ちゃん"って呼ぶよ?』
「えっ、」
それはヤダ…っ!
『あ、それとも…むしろ返事しないほうが雛乃は呼び捨てしてくれるかな?』
「呼ぶッ!呼ぶから待ってッ!」
なんだか最悪な状況が脳裏によぎった瞬間、千尋くんにストップをかけてしまった。
…千尋くんを好きすぎる自分を呪いたい。