「それに、私には…もう和樹に気持ちはないから。和樹も前を見て、周りを見てほしい。元には戻れないけど――」

カランカランッ

『和樹ッ!?』


やっと自分の大切な存在に気付いた和樹に、ようやく別れを切り出していると、喫茶店に入ってきた和樹を呼ぶ声にさえぎられた。


『和樹、何しとーとっ!?雛乃に会うって言ったくせに、なんでこんなとこ――えっ、雛乃!?』

「朱莉…久しぶり…。」


ドカドカと私達のいるテーブルにやってきては和樹を怒鳴りつけた人物。

冬休みに会った時よりも少し髪を伸ばした朱莉だった。

心配で和樹と一緒に東京に来たのだろう。冬休みにも見たキャリーバックを転がしていた。

和樹の正面にいる私を見つけた朱莉は混乱しているのか、固まっている。


「とりあえず…座る?」

『えっ?あっ…?う、うんっ』


和樹、どうなってんのよっと小声で和樹を問い詰めているけど、元々朱莉の声は通りやすいからこちらにも丸聞こえだ。


『だっ、誰…っ!?』

「あっ、この人は前にも言ったでしょ?千尋くんだよ。」

『えっ!?千尋くんって雛乃の彼ッ――!』


正面に座っていた千尋くんに驚いた朱莉は、隣に和樹がいたことを思い出して彼氏、と言い切る前に口を押えた。

あまりの朱莉の慌てように、私と千尋くんは苦笑いをこぼすしかない。