「千尋くん…。苦しいよ…。」

『苦しくしてんだから、当たり前だろ。』


ぎゅーっと私の身体をその力強い腕の仲に閉じ込めている千尋くんの背中に手を回す。


…そっか、そうだね。

何も恐れる必要なんてない。私には、いつもそばで見守ってくれている貴方がいる。

隣を歩いてくれる貴方がいる。

太陽のような笑顔を向けてくれる貴方がいる。

手を握れば、握り返してくれる貴方がいる。

涙を流せば、必ずその涙を拭ってくれる貴方がいる。

不安で震えていれば、抱きしめて安心を与えてくれる貴方がいる。


「ありがとう…。私、もう一度和樹と話してみる。」

『うん。』

「ちゃんと和樹と向き合って、今度こそ…笑ってお別れするね。」

『――ん。』


千尋くんの大きな手を握りしめて、私はベンチを立った。

千尋くんのおかげで前を向くことができた。踏み出せなかった一歩を踏み出すことができた。


『そう言うと思って、待たせてあるから。』


私の考えることなんてお見通しなんだね。

私の手を離さずに歩いていく千尋くんを追いかけながら、私は千尋くんと出会えて本当に良かったと思った。