「ちひろく…っ?」

『雛乃が悪いんじゃない。』

「……っ!」

『雛乃は、何も悪くない。』


千尋くんの声は、3年前に重い鎖で閉じ込めたはずの心の奥の奥を溶かしていくようで。

和樹も松岡さんも許せなかったけど、東京に来て誰も気を許すことのできない環境の中で見えた醜い自分が一番許せなかった。

成長しきれていない心を持っている自分が嫌だった。

和樹だってさみしかったはずなのに、松岡さんだって本当に和樹のことが好きだったから告白したのに、それなのに…2人だけが悪い悪いと決めつけて、自分を偽善者ぶってた。


『雛乃はもう十分苦しんだだろ。もう…自分を許してあげてよ。』

「・・・っ、」


自分を、許す…?

千尋くんの言葉に、スッと力が抜けていった。

私……このままでいいの?許してもいいの?この真っ黒な感情を持ってても…いいの?


『俺は…どんな雛乃も愛しいと思う。でも…雛乃が自分を抑えつけてる姿は見たくない。』


どうして千尋くんは、いつも私が欲しい言葉を言ってくれるんだろう。

どうして座り込んでいる私を立ち上がらせるように手を差し伸ばしてくれるの?

どうして呆然と立っているだけの私の背中を優しく押してくれるの?

どうして――どんな私でもこんなに大きな愛で包み込んでくれるの?