「私ね…和樹に浮気されたんだ。」

『……。』


あの修羅場に立ち会わせてしまった千尋くんには本当のことを話すべきだと思った。

私の一番思い出したくない過去。

私がポツリポツリと話す昔話を、千尋くんは何も言わずに聞いてくれた。


「東京に引っ越すことが決まってからだった、和樹の私に対する態度がよそよそしくなったの。少しずつ変わっていく和樹に気づいてたけど…私は何もできなかった。私も東京に行くってなって混乱してたし…正直、和樹のことはどうでも良かったっていうか、構ってられなかったっていうか。」


東京に行って環境の変化についていけるのかとか、東京で苛められたりしないだろうかとか、東京に引っ越すことの不安の方が、和樹と離れ離れになることよりも大きくて。

それが、ダメだったのかもしれない。

和樹もそれを分かってたんだと思う。


「ある日、友達と私の引っ越し祝いだって遊びに出かけた時にね、見ちゃったの。私の友達だった女の子と…和樹が腕を組んで楽しそうに歩いてるとこ。その時一緒にいた周りの友達は皆そのこと知ってた。…私だけ、私だけが…何も知らなかった。」


朱莉に問い詰めたら、全部話してくれた。

松岡さんが和樹を好きだったこと。

私の東京への引っ越しが皆に知ら渡った時、松岡さんが和樹に告白したこと。

和樹がその告白を受け入れたことも――全部。