オープニング曲が流れ終わって、主人公が入学早々遅刻しかけているけれど、今の私はそれどころではない。
私の意識は完全に目の前にあるテレビではなく、背中に密着している千尋くんに向いている。
肩に回っていた腕はすぐに私の胴回りに絡まっていて、逃げようと身をよじることもできない。
おかげで私はカチンコチンに固まっていた。それにもかかわらず、背中から伝わる千尋くんの鼓動はドクン…ドクン…と力強く一定に刻んでいる。
『…雛乃、ちゃんと観てる?』
「えっ?う、うん!」
『ほら、コイツが漫画には出てこないサブキャラの松田。…な、すんげーイカつくない?』
「そっ、そうだね…っ!」
お願いだから、耳元で喋らないでいただきたい、と切に想った。
だって…千尋くんの声ってすごく身体の芯に響くんだもん。
千尋くんの全てに酔わされている私は、千尋くんに囁かれただけで腰が砕けちゃうんだから。
ダンクシュートを観ながら笑っている千尋くんの存在を一心に感じながら、展開に着いていけていないダンクシュートにようやく目を向ける。
千尋くんに漫画を貸してもらっていたから、導入部分は理解できた。でも…、ふいに千尋くんの頭が私の肩に乗せられて、ドキリとした私はまたダンクシュートを観るどころではなくなってしまうのだった…。