『――お待たせ。』

「あっ、ありがとう…!」


ラフな格好に着替えた千尋くんが持ってきたお盆の上には、コップ2つとオレンジジュース一本。

それを簡易テーブルに置いた千尋くんが私の隣に腰掛けるのを妙に意識してしまった私は、誤魔化すようにからのコップにオレンジジュースを注いだ。


「…はい。」

『サンキュ。』


千尋くんにオレンジジュースを渡した私は、いたたまれなくてとりあえず注いだ自分のグラスに口をつけた。

うー…なんか話題、話題、話題…


「家…静かだね。誰もいないの…?」

『まぁな。今日は弟の部活の試合観戦で皆出払ってんだ。』

「あっ、そうなんだ。…千尋くんは行かなくて良かったの?」


弟さんがバレー部に入っているのは聞いたことがある。

千尋くんには劣るらしいけど背が高くて、エースをはってるんだとか。

家族皆で試合を見に行くなんて、千尋くんの家族は仲良いんだなぁと思った。それと同時に、千尋くんも本当は一緒に行く予定だったんじゃないかと不安にもなった。


『俺が行ったって勝つわけじゃないし、それに…弟より雛乃のほうが大事だろ?』

「……っ」


当たり前のように私を優先して考えてくれる千尋くんに私の心は一気に鷲掴みされた気分になった。