『この雨じゃどこにも行けないし、俺も着替えたいんだよね。…イヤ?』
「う…っううん!」
『じゃ、行こっか。』
あれよあれよと決定してしまったお家デート。
水分をたっぷりと含んだハンカチを返されて、私は困惑しながらもそのハンカチをカバンにしまった。
「傘……ないんだよね?」
『うん。』
「じゃあ…はい。」
心の準備なんて全くできてないけど、ここで立ち往生してるほうが居心地悪い。
それに、濡れたままだとまた千尋くんが風邪ひいちゃう。
1本しか持っていない傘をマンションから出て広げた私は、千尋くんに中に入るように促した。
『俺が持つよ。』
「えっ、」
『俺が持ったほうがラクだから。』
人生初めての相合傘をした瞬間に傘の取っ手を奪われた。
確かに、私が傘を持っていると背の大きい千尋くんは窮屈だろう。
千尋くんが傘を握った瞬間に傘の距離がぐんっと広がって雨音が遠く感じた。
「……ありがと…!」
『ううん、俺こそサンキュ。』
雨音でかき消されたはずの私の小さな声はしっかりと千尋くんの耳に届いていたらしく、2人で雨の中微笑みあった。