「おはよっ、千尋くん!」


マンション1階のエントランスに出ると、びしょ濡れの千尋くんが立っていた。


「えっ、何で濡れてるの…っ!?」

『天気予報見るの忘れて…傘持たないで出てきたら途中で雨降ってきてさ…。』


慌てて千尋くんに駆け寄ると、全身ずぶ濡れな千尋くんは力なく笑った。

3月といえどまだ肌寒いこの時期。

雨に濡れたら風邪ひくのに…!

こういう時にだいぶ抜けている千尋くんに私は叱ってみせる。


「もうっ、ダメじゃん…!とりあえず、これで顔くらい拭って?」

『…ん、ありがと。』


差し出したハンカチは、千尋くんの手に渡って、身体に滴っている雨粒を吸収していく。


「今日、どうする?これじゃあ、動物園行けないね。」

『…ん。だからさ…、俺ん家来ない?』

「――え?」


サラッと誘われたデート場所は、ついこの前私を混乱させた場所で、私の心をザワつかせた。