『ゴメン、待たせたね。』
「うっ、ううん…!」
教室に入ってきた千尋くんの大きな手には学級日誌。
咄嗟に笑顔を張り付けた私は、千尋くんのいる方へ顔だけ振り向いた。
「先生、何て言ってた?」
『学級日誌書き直しだってさ~。これ以上書くことなんてないんだけど…。』
私の隣の席に腰を下ろした千尋くんはへそを曲げてご機嫌ナナメ。
千尋くんの手によって開かれた学級日誌の今日の報告の欄は白紙だった。
千尋くん…今日の授業のほとんど夢の中にいたもんね。
今日の昼間、スヤスヤと眠っていた千尋くんを思い出して私は苦笑いをこぼした。
『3限目の英語って何したっけ?』
「うーん、今日は動名詞の内容だったから…、」
『あ、シャーペン貸してくれる?』
「うん、」
あと消しゴムも、と言われて、机の上に出しっぱなしにしていた筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出して、千尋くんに渡した。