『雛乃、』


ようやく泣き止んだ頃、私の身体を少し離した千尋くんは控えめに私の顔を覗き込む。


『言いにくいのは分かってるんだけどさ…、島津に何言われた?』

「……っ、」

『教えてくれる?』


私を心配そうに見つめる千尋くんの瞳を見て、私は察した。

千尋くん…島津さんを怒るかもしれないって。

私のことを考えて、島津さんに怒りの矛先を向けるかもしれないって。

でも…私はそんなこと、してほしくなかった。


「私…、島津さんの気持ちも分かるの。」

『え…っ?』


傍から見たら、私と島津さんの関係は分かりやすいのかもしれない。

加害者と被害者。

でも…私だって、タイミングが違ったら島津さん側に行ってたのかもしれない。

島津さんが千尋くんと付き合ってたら?

好きな人の彼女なんて醜い対象でしかない。その彼女を攻撃してしまうのは仕方ないのかもしれないと思った。