千尋くんのドクンドクンと速い心音が私の身体に直接流れ込んでくる。
背中に回された長い腕が私を逃がしはしないとでもいうように力強く私を締め付けて、このまま離さないでほしいと思った。
――どうしよう、嬉しすぎるよ…っ
「ちひろく…っ」
『不安にさせてゴメン。』
千尋くんのサラサラの髪の毛が私の頬を撫でて、ちょっとくすぐったかった。
もう不安にさせたりしないから、もう一度やり直そう、と言ってくれる千尋くんに、私はまた泣きそうになった。
島津さんには何を取ったって叶わないと思ってた。
でも、唯一私が島津さんに勝てるものがある。
「千尋くん…っ」
『うん。』
千尋くんの存在を確かめるように、千尋くんの首に腕を回した。
プツリと我慢していたものが切れたように、私は千尋くんの温かい腕の中で子供のように泣いた。
たとえ島津さんに勝てるものがないとしても、
この想いは、千尋くんを想う気持ちは、千尋くんが好きだという感情だけは、島津さんには負けない――。