「もう泥だらけだよ…っ?」
『いい。』
「人前でつけられないくらい汚れてるんだよ…?」
『それでもいいんだ。』
刺繍で縫ってある"太宰府天満宮"の文字なんて、泥で汚れてしまって読むことができない。
スゥ…っと抜けていくお守りを掴む手の力が抜けて、チリンとお守りの小さな鈴が鳴った。
「一回捨てられたんだよ…っ?」
『でも、雛乃が拾ってくれただろ?俺は、これがいい。』
2人で汚れたお守りを握りしめる。
まるで、汚れててもいいと言われているようで。
島津さんに捨てられたお守りと私は同じだと言われた時はすごくすごく傷ついたのに、今は…千尋くんに拾われるならそれでもいいと思った。
『雛乃、好きだ。』
「っ――!」
『好きなんだ。雛乃が、雛乃だけだ。』
ぐっと千尋くんに身体を引き寄せられて、一瞬で私は千尋くんの大きな身体にすっぽりと包まれた。