このままだと俺と雛乃の関係が修復できないと思ったからか。
きっと、自分よりも人のことを優先して考える雛乃のことだから、直接雛乃から俺に言うことはないだろう。
柴戸からこの話を聞かなかったら、俺は雛乃の小さな手を2度と掴めなかったはずだ。
「…サンキュ、柴戸。」
『礼なんかいらないっつーの。雛乃が元気ないと、私が嫌なの!っていうか、行くんでしょ?雛乃のとこ。』
「あぁ。」
行かなきゃ。
雛乃の誤解を解かなきゃ。
傷ついた雛乃の心を、俺が受け止めなきゃいけないと思った。
昨日のように、震えているとわかっててみすみす手を離してしまうようなヘマはしないと、心に決めて。
『待って!』
教室に戻ろうと、教室にいるはずの雛乃に話をしに行こうとすると、柴戸に止められた。
『今日は休みよ、雛乃は。』
「え…っ?」
『風邪だって。…さっき、雛乃から連絡があったわ。』
差し出されたケータイ。
その画面には、雛乃からの今日は休むというメールが映し出されていた。
「っ――俺、行くわ。」
『…先生には、なんとか言っとく。』
「サンキュ…!」
行かないと、今すぐに。
ダッシュで教室に戻った俺は、自分の机の上に置かれた鞄を引っ掴んで、周りのどよめく声も聞かずに教室を飛び出した。