今日は補習とかないし、図書委員の当番だったとしても、ここに来る必要はないはずだから、忘れ物を取りにわざわざ帰ってきたのだと思ってた。


『いや、さっきまで担任に呼び出しくらってて。』

「あ…、そうなんだ?」

『俺が休んだ時、模試の結果配られたんだろ?それを取りに行ってたんだ。』


高遠くんの左手にあるプリントを見て、なるほどと納得する。

ふと高遠くんの席を見れば、机の横に通学カバンが掛けられていて、皆帰ったんだという私の考えは勘違いだったことが分かる。


「お疲れ様。」

『小日向こそ、お疲れ様。』


ふふっと2人で笑いあうこの瞬間が、なんだかくすぐったくて。

初めて話したあの日から、高遠くんと私の距離はとても近づいたような気がする。いや…確実に。

でも、すでにこの曖昧な関係がちょっと嫌だと思っている欲張りな自分がいる。


高遠くんが好きだと気付いた時には全く抱かなかった感情。

高遠くんが女の子とちょっと話すだけで、その子にちょっと笑いかけるだけで、私の小さな心はギューッと締め付けられて黒い何かに侵食される。

私だけを見ていてほしい。私だけに笑いかけてほしい。私だけに――…

留まることを知らないこの黒い感情は、決して高遠くんには見せたくないのに。


ガラッ

『あれっ、高遠じゃーん!』


突然教室に入ってきた可愛い女の子が高遠くんに飛び切りの可愛い笑顔を向けているのを見て、胸の奥がズキンッと軋むように痛んだ。