一番最初に日直の仕事に手を付けた学級日誌を書き終えたころには、教室には誰一人としていなかった。

夕焼け前の太陽の日差しが、柔らかく教室の中に差し込む。

パタンッ、と学級日誌を閉じて、私は黒板の前に向かった。


「うわ、すごい落書き…。」


帰りのHRで使われた黒板は、担任の先生の文字と帰りにクラスメイト達がおふざけで書いていった落書きで埋め尽くされていた。

黒板の縁に置かれた黒板消しに手を伸ばし掴んだ私は、黒板の端からチョークを消していく。

強い力で書かれたチョークは何回か繰り返し消さないと中々消えてくれない。

黒板の上方までビッシリと書かれたそれを背伸びをして消していると、ガラリと教室のドアが開いた。


「っ、た…高遠くん…っ?」

『小日向……何してんの?』


黒板側のドアの前にいたのは、マスクをした高遠くん。

突然の高遠くんの登場にビックリしすぎて、私は図書室での時のように背伸びをしたまま固まる。

あの時と違うのは、手に黒板消しを持っているということ。

トン…ッと地面から離れていたかかとを下げて、高遠くんへ向き直る。


「私…、日直なんだ…。」

『あぁ、それで…。』


デジャヴのようなこの状況に苦笑いの高遠くんは、私の返答に納得したのかうんうん、と頷いている。

私が今立っているところは20センチくらいある段差の上で、それなのに180センチある高遠くんを見上げる形になってる。


「高遠くんは?…忘れ物?」